マダラミミズ

 フトミミズ科アズマフトミミズ属マダラミミズ Amynthas maculosus (Hatai, 1930)

Pheretima maculosus Hatai, 1930b: 661; 大淵, 1938b: 178; 大淵・山口, 1947: 1361; Yamaguchi, 1962: 12; 山口, 1962: 25; 上平, 1973a: 57; 中村, 1998: 26; 南谷ら, 2015: 85.

Metaphire maculosa Sims & Easton, 1972: 239.

Pheretima maculosa [sic] Ishizuka, 1999a: 62.

Amynthas phaselus maculosus Blakemore, 2013: 31.

タイプ標本

基産地:Widely distributed in Aomori prefecture, Sapporo and Sendai. (現:青森県、北海道札幌市、宮城県仙台市)

タイプ標本所在地:不明

形態

<外部形態>

 全長 94-145 mm で平均 113 mm、体幅 3-5 mm で平均 3-4 mm、体節数 83-106 で平均 99。

 体色は、生体では体壁が薄いために腸管や血管が透けてよく見える。背面は明るいレンガ赤色に色づくが、色素の配置は一様ではなく、背中線以外に不規則に色づく。このため、体表の模様は斑状で、他のフトミミズとは明らかに異なるように見える。フォルマリン液浸標本では全体的に明灰色でややピンク色がかるが、環帯は濃紫ピンク色。

 剛毛は第 7 体節で 53-55 本、第 20 体節で 67-69 本。第一背孔は第 13/14 体節間溝から開始する。

 受精囊孔は 3 対で、第 5/6/7/8 体節間溝にあるが、標本に固定後もあまりはっきり見えない。雌性孔は横方向に長い楕円形の斑の中にあり、縁はやや色づく。雄性孔は 2-3 個の長楕円形の円盤上にある。雄性孔間剛毛は 12-16 本。

 

<内部形態>

 隔膜は第 11/12/13 体節間はかなり分厚く、第 9/10/11 体節で欠く。

 腸管は第 15 体節から始まる。腸盲嚢の形態は記載文中には明記されていないが、図より鋸歯状であり、背腹両面に 6-8 個の小突起があり、第 27 体節に開口する。

 受精囊は第 6-8 体節にあり、主嚢の嚢状部は洋梨形で、導管は直線的。副嚢は細く、主嚢よりもやや短い。副嚢は外側に向かってゆるやかに湾曲する。卵巣は見当たらない。摂護腺はよく発達する。

 

Hatai (1930) p. 663 Fig. 7 より


分布

 北海道から関東地方にかけて分布する。ただし、関東地方では確認事例は極めて少ない。

図. これまでに出版された文献に基づく、マダラミミズの分布確認地点


生態

 動作はやや緩慢 (畑井, 1931)。

備考

 畑井 (1931) は和名をマダラミミズとしている。

 

 イロジロミミズのシノニムとすべきかどうか、議論が続いている。Hatai (1930b) は、雄性孔は円形であること (イロジロミミズはそら豆型)、卵胞を欠くこと、雄性孔間剛毛が少ないこと (maculosus は 12-13 本、phaselus は 14-16 本)、背孔の開始位置が異なること (maculosus は 13/14、phaselus は 12/13)、生体では体色は一様に分布せずに斑状に見え、腸管や背孔血管などが透けて見えること、第 11/12/13 体節間溝の隔膜は phaselus に比べずっと薄いことにより、独立種とした。その後、山口 (1962) は maculosus はイロジロミミズに包括される疑いがないでもない、と述べている。その後、Easton (1981) やにより疑問符付きで、Blakemore (2003) により括弧と疑問符付きでメガネミミズのシノニムとされ、Blakemore (2008d, 2012b) によりイロジロミミズが独立種とされたことから、括弧と疑問符付きでイロジロミミズのシノニムとされた。一方で、日本の研究者は一貫して独立種としていた (上平, 1973a; Ishizuka, 1999a)。その後、Blakemore (2012) により独立種に、Blakemore (2013a) によりイロジロミミズの亜種とされた。

 分子系統学的解析を含めた、今後の検討が必要である。

 

 Blakemore (2013a) による済州島のミミズの報告では、図示された腸盲嚢の形態が突起状型であること、雄性孔もかなり小さな円形の突起状型に描かれていることから、本種の特徴には一致しないと考えられる。イロジロミミズを含む他の種との検討が必要である。

シノニムリスト

Pheretima maculosus Hatai, 1930b: 661.

Pheretima maculosus 畑井, 1931: 190 マダラミミズ (新称). [記述のみ]

Pheretima maculosus 大淵, 1938b: 178. [記述のみ]

Pheretima maculosus 大淵・山口, 1947: 1361. [同定形質のみ]

Pheretima maculosus Yamaguchi, 1962: 12. [形態記載]

Pheretima maculosus 山口, 1962: 25. [同定形質のみ]

Metaphire maculosa Sims & Easton, 1972: 239. [記述のみ] (Sep ?, 1972)

Pheretima maculosus 上平, 1973a: 57 マダラミミズ. [同定形質のみ] (?, 1973)

Pheretima maculosus 中村, 1998: 26 マダラミミズ. [記述のみ]

Pheretima maculosa [sic] Ishizuka, 1999a: 62. [記述のみ]

Pheretima maculosus 上平, 2001a: 63. [記述のみ]

Pheretima maculosus 上平, 2003e: 46. [記述のみ]

Pheretima maculosus 上平, 2004c: 24. [記述のみ]

Amynthas phaselus maculosus Blakemore, 2013a: 31 (syn. kamitaiserrataminjae).

Pheretima maculosus 南谷ら, 2015: 85. [同定形質のみ]

引用文献

Blakemore, R.J., 2003. Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): A review and checklist of species. Organisms Diversity and Evolution 11: 1-43.

Blakemore, R.J., 2008d. A review of Japanese earthworms after Blakemore (2003). In: Ito MT, Kaneko N, (eds.), A Series of Searchable Texts on Earthworm Biodiversity, Ecology and Systematics from Various Regions of the World, 2nd Edition (2006) and Supplemental. COE soil Ecology Research Group, Yokohama National University, Japan. CD-ROM Publication.

Blakemore, R.J., 2012b. Japanese earthworms revisited a decade on. Zoology in the Middle East 58 suppl 4: 15-22.

Blakemore, R.J., 2013a. Jeju-do earthworms (Oligochaeta: Megadrilaceae) - Quelpart Island revisited. Journal of Species Research 2(1): 15-54.

Easton, E.G., 1981. Japanese earthworms: A synopsis of the Megadrile species (Oligochaeta). Bulletin of the British Museum Natural History (Zoology) 40(2): 33-65.

 

Hatai, S., 1930b. Note on Pheretima agrestis (Goto and Hatai), together with the description of four new species of the genus PheretimaScience Reports of the Tohoku Imperial University, 4th series Biology 5(4): 651-667.

畑井新喜司, 1931. みみず. 改造社. 218 pp. (復刻 みみず. 1980年 サイエンティスト社より)

Ishizuka, K., 1999a. A review of the genus Pheretima s. lat. (Megascolecidae) from Japan. Edaphologia (62): 55-80.

上平幸好, 1973a. 日本産陸棲貧毛類フトミミズ属(Genus Pheretima), 種の検索表. 函館大学論究 7: 53-69.

上平幸好, 2001a. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅰ. ―青森県で採集された種類と分布―. 函館大学論究 32: 61-72.

上平幸好, 2003e. 渡島半島に生息する大型貧毛類とその来歴-道南のミミズが私たちに語ること―. Oshimanography (10): 45-54.

上平幸好, 2004c. 東北地方における陸棲貧毛類の分布に関する考察. 函館短期大学紀要 30: 23-32.

南谷幸雄, 池田紘, 金子信博, 2015. 青森県の陸生大型貧毛類(ミミズ)相. 青森自然誌研究 20: 81-90.

中村好男, 1998. ミミズと土と有機農業. 創森社, 123 p.

大淵眞龍, 1938b. 本州東北部に於ける Pheretima 属に就て. 動物学雑誌 50(4): 177-178.

大淵龍, 山口英二, 1947. 環形動物貧毛綱. In: 内田清之助 (ed.), 新日本動物図鑑. 北隆館, 東京. pp. 1352-1371.

Sims, R.W., Easton, E.G., 1972. A numerical revision of the earthworm genus Pheretima auct. (Megascolecidae: Oligochaeta) with the recognition of new genera and an appendix on the earthworms collected by the Royal Society North Borneo Expeditions. Biological Journal of the Linnean Society 4: 169-268.

Yamaguchi H., 1962. On earthworms belonging to the genus Pheretima, collected from the southern part of Hokkaido. Journal of Hokkaido Gakugei University 13: 1-21.

山口英二, 1962. 北海道産の陸棲みみずについて. 生物教材の開拓 2: 16-35.